入院、手術まで

入院前日の母も楽しげだった。お母さんえらいからもう準備はほとんど終わってんねん、とか、お母さんが入院したらあんたが家事をやるんやで、掃除機はここで、お母さんのパンツはここ、お母さんが死んだらこれを○○さんに送って! などなど。


入院の当日の母も楽しそうだった。基本的に、母は病院が好きなんだと思う。母が見つけてきた病院は、母好みのきれいな病院だった。窓から海が見えるのはいいと思った。


手術の二日前、個室に移動になった。予定では手術前日に移動するはずだったのだが、早めに移れることになったのだ。ここでも母のテンションは上がっていた。個室では、BSが映るので韓国ドラマが見れる! と大喜びで、「お母さん、ずっとこの部屋に住みたい」とまで言うほどだった。


入院何日目だったか忘れたが、母に、洗濯物をもって帰るから、今着替えれば? と勧めたことがあった。母はなんやかんやと理由を付けて着替えを渋る。私は、着替えるのが面倒なんだな、と思ってスルーしていたんだけど、今思うと、違っていたのかもしれない。


結局、母は着替えることになったのだけど、そのとき母は、右腕を見せてくれた。右の二の腕の部分に、大きくてひどいアザがあった。
「これな、検査のとき、怖くて自分でぎゅーって掴んでたら、こんなアザになってもうてん。もう治ってきてんけどな」


自分で腕を掴んだだけでできるアザには思えない程の、濃い青紫色をした手のひら位のアザだった。私は、そうか、と言うことしかできなかった。先日、肩を揉んだときに右腕のほうを揉もうとしたとき、「痛いからやめて!」と言うので、てっきり検査かなにかの注射の跡でもあるのかと思っていたが、まさか自分でつけたアザだったとは。


人一倍怖がりの母の性格を思い出す。その母が怖いって言わない。言わない代わりに、右腕にアザができていた。母の右腕のアザのことを考えると、何とも言えない気持ちになる。


母は、検温や血圧を計りに来る看護士さんたちに右腕のアザをつっこまれるたびに、「自分で怖くて掴んでたらこんなになっちゃったんですよ〜」と笑いをふりまいていて、私には、「いっつも看護士さんたちにアザのこと聞かれるから自分で言うねん」と笑った。私も笑った。