ことの始まり

ことの始まりは、父からのメールだった。


10月20日水曜日の夜。残業終わりでバスに揺られていたら、ポケットの携帯が短く震えた。

件名:心配です
母さんからこんなメールが来たけど理由を教えてくれない、それとなく聞いてヨ?22日出張で父さん休めないので

                  • -

おはよ。金曜日の午前中、一緒に病院へ行ってください。


おかしいな、と思った。「母さんからこんなメール」が来たことも変だし、「理由を教えてくれない」のも変だ。しかも父同伴で向かう先が病院というのが引っ掛かる。とりあえず今バスだから、帰ったら電話してみるよー、と返信。普段は返信の遅い私にしては早い返信だった。


帰宅して、とりあえず一息ついて、コンビニで買った野菜ラーメンをレンジで温める。おなかが空いている状態で掛けられる電話ではないな、と思ったからだ。野菜ラーメンは、美味いとか不味いとかいう前に、飽きた、というのがぴったりくる味だった。


父からメールがあったことは言うまい、と決めて、母の携帯に電話をした。母はすぐにでた。いつもと変わらないテンション。予想できていたのでそれほど動じず、私もいつもと変わらないだるいテンションで話をした。


この前送ってきてくれたリンゴはいつまで食べられるか、という話題から入り、体調はどうか、と尋ねる。母は、「うーん、ちょっと調子悪いや。それより、あんた、仕事どうなん?」と、ひらりと話を変えた。


この時点で、ますますおかしいな、と感じた。普段の母なら、自分の体調の悪さをこれでもかと誇張し、「かわいそうやろ? お母さん、かわいそうって言って!」と言うはずだ。それもどうかと思うけど。


ひととおり私の仕事の話をし終わって、私は気になっていたことを聞いた。
「なんか鼻声やけど、どうしたん? 調子わるいって風邪?」
「いや、風邪ちゃうけど、今お風呂上りやから」


ここで決定的に変だと確信。鼻声の理由がお風呂上りっていうのはおかしい。お風呂上りに鼻声になっている母を、私は見たことがない。


そして、これはこれ以上つっこんでも、無駄だと思った。母に話す気がないのが明白だ。私も似たようなところがあるので、そのへんは敏感に察知できる。


最近寒くなったからあんた風邪ひかんようにあったかくしいや! あんたはすぐ風邪ひくからな、といういつもの決まり文句をハイハイと受け流して、電話を終えた。


明らかにおかしくて不安になる。もう一度、父から直接母に問いただしてほしいと、すぐに父にメールをした。


悪い想像がすごいスピードで頭の中を駆ける。


ツイッターには、

親が死んじゃうところと彼氏と別れるところを想像したら泣けた。
posted at 21:57:37
http://twitter.com/tomihiro/status/27928330614

親はいつか死んじゃうからな。
posted at 21:58:56
http://twitter.com/tomihiro/status/27928434575

って投稿している。


この時点で母が死ぬ想像と彼氏と別れる想像をしていて、我ながらちょっと呆れる。


こんな感じで、私の落ち着かない日々は幕を開けた。